【書評:胃と腸アトラス】美しい写真がすべてを語る,素晴らしい書

書評者:武藤 徹一郎(がん研有明病院 名誉院長)

初版から13年,改訂決定から約4年の年月を経て『胃と腸アトラス』第2版(I・II)が完成した。誠に想像を超えた見事な出来栄えである。監修の八尾恒良博士,「胃と腸」編集委員会そして本書の編集委員の諸氏の多大な努力に,まず深く敬意を表したい。内視鏡像,X線像,病理組織像のいずれをとっても完璧で美しい。よくここまで質の高い多くの写真を集められたものと感嘆するばかりである。

初版の序文において“本書は本邦独自の診断学を集成し,消化管診断学に従事している医師や研究者の臨床に役立てることを目的として「胃と腸」の編集委員会で企画され,編集された”とあるが,この第2版によってその目的はさらに高いレベルで達成されたといえる。扱っている疾患は,「I 上部消化管」:咽頭5項目,食道58項目,胃62項目,十二指腸48項目,「II 下部消化管」:小腸66項目,大腸78項目の合計317項目にのぼり,初版より大幅に増加している。見たこともないようなまれな疾患も数多く掲載されており,エンサイクロペディア的に活用することも可能であるが,折に触れてページを開いて美しい写真を眺めるだけでも心が癒される。項目ごとに症例についての簡潔な記述があり,各画像の簡単な説明があるだけで,美しい写真がすべてを語ってくれている。必要最小限の文献が各項目の終わりのページに記載されているのも,大変便利でしゃれている。

とにかく一度手に取って眺めてもらいたい。その情報量の多さと質の高さに圧倒されるであろう。これは「胃と腸」を育ててきたわが国の消化管医だからこそ可能である偉業といえよう。八尾博士は「胃と腸」の誕生期から文字通り先頭を切って消化管学を引っ張ってきた。博士の存在なくしてはこの快挙は生まれなかったであろう。“消化管は野〈ヤ〉の学である。”という博士の言葉が今は遠くに聞こえてくる。できることなら英語版を出して欲しいと願うのは評者一人ではあるまい。しかし,海外に本書の質の高さを理解し愛でることができる人が何人いるかを考えると,これは夢だろうか。だが,わが国には本書の素晴らしさを理解できる消化管医は,数限りなくいるに違いない。本書を座右の書として,日常の臨床に活用されることをお薦めする。

(この書評は、胃と腸アトラスの「I 上部消化管」と「II 下部消化管」の2冊について書かれたものです)