【書評:胃と腸アトラス】美しい画像に息をのむ,消化管疾患アトラスの決定版

書評者:田尻 久雄(日本消化器内視鏡学会理事長/慈恵医大主任教授・消化器・肝臓内科)

このたび,名著『胃と腸アトラス』が13年ぶりに全面改訂され,刊行となった。本書は,執筆者らが日常診療で遭遇するすべての症例を極めて丁寧に扱い,その経験の積み重ねにより成り立っていることが伝わってくる大著である。本書の最大の特徴はX線像や内視鏡像を中心にした臨床画像所見と病理学所見との対比に基づき,疾患解説が統合的になされていることである。取り上げられている疾患は,消化器診療に従事する上でその理解が必須とされる疾患から,発生頻度は少ないものの貴重な疾患まで多岐にわたるにもかかわらず,非常に質の高い画像で構成され,読者に理解しやすく解説されている。

また第2版では,初版では取り上げられていなかった咽頭の項が追加され,食道・胃・十二指腸・小腸・大腸のいずれの項においても扱われている疾患数は大幅に増えており,消化管で見られる疾患が各臓器別にほぼ網羅されている。さらに画像強調内視鏡や小腸内視鏡,カプセル内視鏡などの新たなモダリティも組み込まれている。第2版の画像は初版に比べてその質が飛躍的に向上しており,その一端を担った画像診断機器の進歩に心をはせながら,美しい画像に息をのみ,厳選された疾患をX線像や内視鏡像などを基に読み進むと時間が過ぎるのを忘れるほどである。何よりもX線像や内視鏡像が鮮明かつ十分に大きく,また随所に執筆された先生の渾身のエネルギーと溢れんばかりの情熱がほとばしっており,ページをめくる度に読む者の心を惹きつけてやまない。本書は13年前に出版された初版がさらに洗練され,その間の消化器病学と消化器内視鏡学の進境が反映された書といえるであろう。

これから消化器病学ならびに消化器内視鏡学を志す若い医師の皆様にはぜひ本書を手元に置き,日常診療に生かすとともに今後の礎にしてほしい。すでに消化器診療に専心している医師の皆様にとっても,読み応えがあり,消化器疾患に対する理解をさらに深めるのに適した書であると考える。本書は,まさに“消化管領域におけるアトラスの決定版”であり,わが国の消化器病学ならびに消化器内視鏡学のさらなる進歩に大きく寄与するものと確信する。

最後に監修の八尾恒良先生,編集に当たられた「胃と腸」編集委員会,編集委員の芳野純治先生,小山恒男先生,小林広幸先生,松田圭二先生,岩下明徳先生ならびに執筆者の先生方のご尽力に心から敬意を表します。

(この書評は、胃と腸アトラスの「I 上部消化管」と「II 下部消化管」の2冊について書かれたものです)