【書評:胃と腸アトラス】読んで,見て,とても楽しいアトラス

書評者:千葉 勉(京大教授・消化器内科学)

初版以来十数年,待ちに待った「第2版」である。本書はとにかく,読んでいて,見ていて,「とても」楽しい。また疾患満載でとてもハンディである。しっかり見てもよいし,さっと見てもよいのが,本書の素晴らしいところである。

本書の最大の特徴は,やはり画像が素晴らしい点である。初版もそうだったが,今回は拡大内視鏡,NBI,小腸内視鏡などが加わって,さらに充実した。私たちが以前から知っていた疾患が,拡大,NBIで見ると,「ああこんなふうに見えるのだ」というふうに,まるで新しい疾患を見たかのような錯覚に陥る。食道のクローン病などがよい例である。実は先日,食道の変な粘膜欠損の患者が来院したのであるが,本書を見て「これだ」と思って,内視鏡をしたら,まさしく食道クローン病であった。

本書のもう一つの特徴は,重要な点が簡潔でありながら,細かく正確に記載,あるいは画像で明快に示されている点である。初版のときにも書評で書かせていただいたが,例えばAAアミロイドーシスとALアミロイドーシスのアミロイド蛋白の沈着部位の違い,GVHDの特徴的な画像,また自己免疫性胃炎の胃体部と幽門部粘膜の差,などが明快に画像や組織所見で示されている。

さらに本書では,極めて多くの疾患が扱われており,辞書のように使えることがうれしい。例えば,天疱瘡の食道や,里吉症候群,セリアック病など,評者が見たことがない疾患もあり,さらにリンパ腫やポリポーシスなど腫瘍性疾患の記載も幅広い。

本書の発行については,八尾恒良先生がすべての疾患に目を通されたそうだが,症例の選び方,構成の仕方など,やはり八尾先生の「するどい目」を随所に感じた次第である。

最後になるが,本書の第3版はいつになるであろうか? 近年,例えば上部消化管疾患で言えば,H. pylori 感染率が低下してきたことによって,疾病構造の変化が生じ始めている。その結果,GNAS mutationに特徴付けられるH. pylori 陰性の体部癌やpyloric gland adenomaが注目されるようになってきた。また新しい疾患として,九大グループから報告されたfundic gland polyposisや,PLA2遺伝子異常を伴い,非特異性多発性小腸潰瘍との異同が注目されているCMUSE(cryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritis),若年性ポリポーシスとHHTの合併例など,新しい疾患,局面も集積しつつある。評者も来年退官だが,まだ先の話ながら,ぜひとも第3版を見たいもの,と心待ちする次第である。

(この書評は、胃と腸アトラスの「I 上部消化管」と「II 下部消化管」の2冊について書かれたものです)